川場村を美しく表現し続け、世界へ羽ばたく酒蔵|後編 永井酒造株式会社
今回は群馬県利根郡の川場村にある永井酒造の酒造りについてお話を伺った。美しい自然の残るエリアは旅先の1つにもなるが、伝統的なものづくりが根付く場所でもある。ぜひ、川場村に思いを寄せながらご覧いただきたい。
日本酒文化を世界的な価値へ
「私が入社した頃はまだ地酒ブームで、日本酒もよく売れている時代でした。しかし、ここ20年〜30年は日本酒全体の売り上げは右肩下がりなんです。」
永井酒造株式会社・代表取締役 永井則吉氏(以下、永井氏)は、日本酒業界全体の現状を話すと共に「日本酒文化自体を世界的な価値にしていきたい。」とも言葉にした。
〈世界に通用する商品を造る〉
かなりハードルの高い言葉に聞こえるが、「伝統と革新」を掲げ、日本酒の新たな形を提案する取り組みに挑戦し続けてきた永井酒造だからこそ言える言葉かもしれない。
永井酒造はコース料理に、日本酒をペアリングするというNagai Styleを提唱している。「日本酒の新たな形を提案する」というのはこの取り組みのことだ。Nagai Styleは大きく4つのカテゴリーに分かれている。
乾杯酒、食中酒、熟成酒、デザートと合わせる食後酒。今までに無い日本酒の在り方を提案している。だが、この形に至るまでは挑戦の連続であったと永井氏は振り返った。
世界に挑戦するために…
永井酒造が提案する乾杯酒MIZUBASHO PUREは、伝統的な日本酒製法に瓶内二次発酵を取り入れた、本格的なスパークリング清酒である。
「何度も心が折れた。本当に血と汗と涙の結晶です。」
短い言葉に重みがある。
まだ飲んでいない方に注目して欲しいのはその食感。
舌の上に乗る泡はきめ細かく、口の中でふくらみのある甘みと香りを残していく。質のいい酸は食前の口を整えてくれるだけでなく、飲み手の気持ちを軽やかに仕立ててくれる。
「シャンパンは、自分たち(シャンパン)の基準を明確にしている。それならば、我々もお米文化として、日本酒でその基準をクリアしようと思ったんです。」
永井氏の想い、目標から泡酒造りが始まったが失敗の連続。2006年のシャンパーニュ研修でヒントが得られなかったら辞めようと、そんな覚悟もしていたのだとか。
「1か月間シャンパーニュまで研修に行ったんです。もうその時点で500回くらい失敗していて後がなかった…。ですがそこで、現地に行かないと知ることができなかったヒントを得られました。その後、開発が進み700通りの組み合わせで、自分たちのレシピができあがりました。」
MIZUBASHO PUREは日本酒で初めて瓶内二次発酵をさせ、5気圧を超えることを目指して作られた一本。伝統製法の純米酒製法で造られているということもあり完全に日本のオリジナルである。
挑戦と日本酒の未来
日本酒のスパークリングの普及に関しては、1社では限界があると思い、2016年に「awa酒協会」を立ち上げている。今は33社が加盟し、その初代理事長を務めている。
永井氏の挑戦はそれだけでは終わらない。Nagai Styleに含まれている「熟成酒」に関しても長い時間をかけて研究し、商品化に至っている。熟成酒に関してはその価値を高め、世界に発信するために一般社団法人「刻(とき)SAKE協会」を、日本酒の蔵元が集まり共同で設立。
今回は熟成酒の部分までお話を伺えなかったが、伝統ある蔵元でありながら挑戦を続けてきている日本酒蔵であることが分かるだろう。
現在は完全招待制の「SHINKA〜真価、進化、深化〜」というテイスティングルームと醸造研究所からなる複合施設もオープンした(2023年8月1日)。川場村の自然と共にゆっくりと日本酒をテイスティング体験ができるのだとか。
「一人ひとりのお客様を大事にし、唯一無二の体験を川場村でしてもらいたい。私は伝統産業に携わっていますが、これからは感性の時代。いかに感性を高めてこの産業を世界に伝えていけるか、ということが大事だと私は考えています。」
すでに、世界へと舞台を移しながら日々酒造りに挑む永井酒造ではあるが、根底にはこの川場村がある。そして川場村が持つ自然、水の魅力を最大限に引き出し、進化させているのが永井酒造だ。
手がけてきた1本1本に、川場村の魅力と永井酒造が長年醸造してきた想いが込められている。
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