余白に触れる場所へ(後編)|「log&sauna 和 – nagomi, wakayama -」
前回に引き続き、灯屋合同会社が手がける「log&sauna 和 – nagomi, wakayama -」をご紹介します。
一日一組限定の宿泊施設として和歌山県紀の川市上鞆渕に2024年10月にオープン。
こだわりのサウナ施設や過ごし方についてお話しいただきました。
構想とのギャップの中で
「実は着手前は問題が多かったんです。」そう話すのは、灯屋合同会社・大江一生(おおえいっせい)氏。
何もない場所だからこその魅力を感じ、自然の豊さにフォーカスした施設づくりをしようと思った矢先、土地の権利問題や水道、トイレの配管問題など予想外のトラブルに見舞われたと言う。
「まずは近隣住民への理解を取らせていただき着工しました。ですがいざ始まると、少しずつ問題が出てきたのです。正直、和歌山市内では考えられないような問題もあり、一つ一つをクリアして今を迎えています。」
ただ、川の水の水質が良く、水風呂には自然の湧き水が使えることになった。予期せぬ自体はポジティブに捉えている。サウナには水風呂は欠かせない。
サウナが好きだからこそ苦手な人にも
「サウナは二人とも好きです。ただ、広くさまざまな目的のユーザーに楽しんでもらうことを考えました。とはいえ、サウナ好きだからこそ、まずは今までサウナで感じたマイナス部分を消していきました。」
例えば、制限なくサウナを使用できるという特徴。大江氏は時間で区切りられることに対して「短い」と思っていたそう。だからこそ一棟貸し切り、時間無制限で朝昼晩とゆっくり使ってほしいという。
また、サウナを出てすぐ水風呂に入れることや、水風呂から椅子までの距離など、サウナが好きだからこそ見える導線も考えている。これはあくまで普段感じる「こうだったらいいな」という部分を叶えたものであり、サウナが苦手な人への工夫もしっかりしている。
「ウッドデッキはかなり広いです。インフィニティチェア4台とハンモック二台置いても余裕があります。また、水風呂はお湯も溜められるようにしています。サウナが苦手な人も露天風呂にできたり、五右衛門風呂として使いたいというニーズも叶えられますからね。」
一つは水風呂、もう一つはお湯。使い方に幅があるのは嬉しいことだ。また元々植栽があり、桜、紅葉、木蓮、コナラを植えていて、サウナと一緒に春夏秋冬を楽しむことができるのだとか。
春に来たらまた次の季節にも違う表情が見たくなる、そんな造りになっている。
「あかね材」への思い
ちなみにサウナには「あかね材」というものが用いられている。
そもそも和歌山県は県土の77パーセントを森林が占めていて、優れた木材を生み出す林業地として知られている。「紀州・木の国」と呼ばれる和歌山県から生まれる「紀州材」は、「粘り強さ」が特徴。いわゆる強度の部分だ。色合いが良く、つやがでるのも一つの特徴で、知っている人も多いかもしれない。
その中でも今回は「あかね材」というものにスポットライトをあてた。
あかね材は、「スギノアカネトラカミキリ」と言う虫によるスギ・ヒノキの食害を受けた木材。柱になった場合の強度にはまったく関係ないという研究結果も出ているそうだが見た目から敬遠されたり、伝統的に安い流通価格で出回るなどのケースがあった。
参考:紀州材の特性|和歌山県
参考:株式会社杉生「枝虫材とは」
参考:BokuMoku「スギノアカネトラカミキリについて」
「林業の本場である田辺市に住んでいた時期がありました。そのエリアはあかね材を積極的に使おうという取り組みが盛んで、素敵だなと思っていたんです。紀州材は地元の物なので使いたい、紀州材を使うのならあかね材を使いたいな、と。」
虫食いされたものは、捨てたり価格が落ちるため林業が廃業するということが昔からあったそう。しかし、世の中の変化によって虫食い跡も「デザイン」としてある程度の価格で流通させるという仕組みが紀州材でも行われているという。
林業の取り組みや木材への関心も生まれそうだ。
そして、宿泊施設となるログハウスはオールウッドスタイル。和歌山の杉の木を使っているログハウスで築二十七年ほどだ。リフォーム前の内観から、すでに立派である。
サウナ施設もそうだが、宿泊場所も含め「木」に少し注目してみてほしい。見て、触れることで関心がさらに広がるかもしれない。
余白に触れる場所
大江氏の話を聞いて感じる「log&sauna 和 – nagomi, wakayama -」には、今の時代だからこそ大切なものが絶妙なバランスで組み込まれているように思えた。
押し付けがない、自由度が高く、足を運ぶユーザーの感性に任せた過ごし方、感じ方が存在する。
都会での生活を経て見えてきた地元・和歌山の魅力、土地の魅力を広い視点で伝えようとしていることがうかがえるのだ。
今の生活や暮らしのリズムに少しでも窮屈さを感じたら、余白に触れられる場所へ足を運んでみてほしい。
最後に大江氏に今後に向けての気持ちを聞いてみた。
「『ここどこ?』というような場所なので、まずはこの地を知ってもらいたい。そしてこの土地の魅力を知ってもらえたら、僕らとしてはやっている意味があると思います。
6月には蛍が飛ぶので、次はその時期に来てみようとか、次はいつ来ようとか、何度も来てもらえる場所にしたいと思っています。食材提供をしていませんが、だからこそ道中いろんなところに立ち寄って魅力を感じてほしい。和歌山県を知る機会にしていただけたら僕たちは嬉しいです。」
「log&sauna 和 – nagomi, wakayama -」は、和歌山県を知る一つのきっかけになるとともに、人々が余白を楽しむ素敵な空間になっていくだろう。ぜひ本記事をきっかけに足を運んでみてほしい。
ー余白に触れる場所へ|「log&sauna 和 – nagomi, wakayama -」 ENDー
INFORMATION
log&sauna 和 - nagomi, wakayama - (灯屋合同会社)
一日一組限定の宿泊施設として和歌山県紀の川市上鞆渕に2024年10月にオープン。 自然の多く残るエリアで、非日常を満喫できるサウナ施設と一棟貸のログハウスが待っている。 *施設紹介・予約ページ下記記載
住所: 〒649-6571 和歌山県紀の川市上鞆渕1560-1
HP: https://nagomi-wakayama.snack.chillnn.com/snack/top